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「1998年度毎日広告デザイン賞 発言広告の部・最高賞受賞」
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毎日広告デザイン賞に応募しようと思ったのは、98年の暮れに、ある新聞記事を目にしたのがきっかけです。それは、小・中学生の女の子たちの過激ともいえるダイエットについての記事でした。
「この記事はテーマとしてはそれほど規模が大きくないが、家族一人一人にはとても深刻に、身近にとりあげられる問題だ。発言広告にいけるかもしれない。」
さっそく、コピーライターとアイデアの打ち合わせを始め、あんなのはどうだ、こんなのは、と企画を出しあっている最中、ふと、「小・中学生の女の子が使うもので、学校に関する小道具が細なが〜くやせているイメージはおもしろいな。」と思いつきました。最初に頭に浮かんだのは、真っ赤なランドセルが異常なほど細長くのびている絵。ただし、これは、大きな意味でのダイエットという部分までは、コミュニケーションがとれない。あれこれ考えていると、“ガリガリに削られた、ほとんど芯だけのエンピツ”というビジュアルが、それこそ電球がパッとつくようにひらめいたのです。
作業的には1本の鉛筆を撮影するだけなので、それほど複雑なテクニックは必要ありません。しかし、このアイデアでいこうと決めた日から、本当にこれで伝わるのか、発言広告として成立するのかという根本的な疑問が何日も頭から離れませんでした。そして、それ以上に、たった1本の、それも芯ばかりの鉛筆だけで画面が“もつ”のだろうか。それが一番の心配のタネでした。最終的に、アペドンやペンの、昔の8×10のようなドラマチックな光で、巨匠になったつもりで撮ろうと、カメラマンに指示したことを覚えています。結果的には賞が取れましたが、自分がめざす、デザイン(ビジュアル)のみでもコミュニケーションができる広告に仕上がったかといえば反省点も多く、発言広告の宿命である発言(コピー)が逆に今までの広告形式を壊しきれなかったという点に、今でも悔いがのこります。
現在、私はコンピュータメーカーや自動車メーカーなどの広告を担当しています。実際の仕事には規制も多く、なかなか思いどおりにはいきませんが、それこそが広告制作の醍醐味ともいえるわけです。そしてまた、それら日頃のうっぷん(?)を、広告賞という自由な表現手段の場にアピールできたことにあらためて今、感謝しています。
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吉崎 実
第20期 デザイン I 類専攻広告コース
株式会社東京アドデザイナーズ勤務
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