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大橋 博 22期 美術学科 美術II類
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造形大の思い出
まったく何も完成できなかったというのが造形大学時代の思い出でです。最初から後ろ向きな発言ですが、今思えば、この時代に後ろを感じられたことで前を意識できたように思います。
私が彫刻を意識したのは高校3年生のときの出来事です。
美大受験のため油絵の勉強をしていました。もともと絵を描くことは好きでしたし、大学受験を意識したとき他にできそうなこともなかったので、どちらかというと消去法での選択だったように思います。地元の小さな研究所でしたし、要領も良かったのでしょう。経験のわりには成績も良かったと思います。高校では美大を目指すのは私一人で、他人との違いや井の中の評価に妙な優越感を持っていました。ある日の講評会のことです。講師の先生に「君は典型的な絵描きだな。表面的この上ない。彫刻の勉強でもしてみたらどうだ。」と言われました。「表面的?彫刻?」未だにその先生の真意は解りかねますが、この言葉が表面的でないもの、つまり彫刻を意識するきっかけになったと思います。
さらに同時期、教育実習に来ていた美術史専攻の先生に誘われ、美術ギャラリーというところにゆくことになりました。人生初の体験に胸躍らせ訪れた場所はなんと木造3軒長屋の普通の民家だったのです。木製の引き戸を開け、玄関で靴を脱ぎ、敷居をまたぐとそこには真っ白で清潔な空間が広がっていました。彫刻家Fさんとの出会いです。展示してあったものはFさんの作品で紙を鉄板で挟み込んだ圧縮した四角い固まりや、黒く塗りつぶされたドローイング。「これなんなの?」と思う間もなくFさんは「君、リチャード・セラって知ってる?アメリカのミニマルアーティスト。僕、尊敬してるんだ。」みたいなことをおっしゃっていたような気がします。そんなことがきっかけで展示があるたびに足繁く通っては未知の言葉に酔いしれ、そこに集う人々にときめいていました。ホワイトキューブ、ミニマルアート、カールアンドレ、スティーブライヒ、ジョンケージ等々、これら素敵な単語を覚えるたびに新しく刺激的な世界が広がっているような気がしました。
憧れとコンプレックス。今思えば、これが彫刻を始めようと思ったきっかけだと思います。
大学に入ったらセラのような作品をつくってみたい!と思い東京造形大学に入学しました。ところが実際、大学の授業はモデルを使った人体塑造が中心のカリキュラムで、同級生も誰一人としてミニマルを語ってはくれなかったのです。後悔の念を引きずりながらも課題に取り組んでいた1年目。学校辞めたいなと思い始めていた2年の春、初めての等身大の塑造制作を行うことになりました。塑造による作品制作は受験時代にも経験していたし、技術的にも新しいものはほとんどなくそれほど期待していなかったのですが、これが面白かったのです。まったくうまくいかなかったし、中途半端でしかなかったと思うのですが、人のかたちが自分の手によって目の前に現れるという今までにはなかった体験でした。それから卒業まで飽きもせず夢中になって塑造制作をしました。結果としては散々でまともに完成したものはありませんでしたが、身体と時間を使ったリアリティーの純度は非常に高かった気がします。
現在もいろいろな人との出会いや言葉に刺激をもらいながら制作を続けていますがなかなか理想の作品は目の前に出現してくれません。憧れとコンプレックス。未だにこれが彫刻を続けている原動力だと思います。
大橋博(おおはし ひろし 1967〜)
1991年東京造形大学美術II類卒業。
1999年東京芸術大学大学院文化財保存学科修了。
個展としてWada Fine Arts/東京(2006,07,08,09,10,13,15)。Hardcore Art Space/マイアミ(2006)。my humble house/台北(2010)。Y++/北京(2012)。Fish Art Center/台北(2014)。METAL ART MUSEUM/千葉(2009,13)。ほか。
グループ展として岡本太郎現代芸術大賞展/神奈川(2003)特別賞。ARCO/マドリッド(2006)。OPERA Gallery/香港(2008)。茨城県立美術館。宮城県立美術館。佐久市立美術館。渋川市立美術館ほか。
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