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彫刻をはじめるきっかけになったのは、ずいぶん昔にさかのぼります。
小さい頃から、本当に生き物が好きでした。
はじめて犬を飼ったのは9歳のとき、ゴンくんと名付けたその犬は、ほんとうにかわいくて、でも生後数ヶ月も立たないうちに病気で死んでしまいました。
私は悲しくて、獣医さんになってゴンくんのような子を助けたい、とおもい、それから生物学にとても興味がある事もあって、理数系のある中高一貫の学校で理科の勉強を中心にがんばっていました。
絵も音楽も好きでしたが、芸術を仕事にしようとはそのころまったく考えてなかったように思います。
大きく変わったのが、中学のときにあった、阪神大震災でした。
私のおうちはぼろぼろになり、近所の通学途中好きだった犬や猫も姿を消し、
大好きだった景色や、大好きだった動物たちが、ある日ふっと、なくなる。そんな経験をしました。
そんなときに、思い出したくても、思い出せない、触れたくても、二度と触れられない、
その悲しさから、形あるものがいかに美しいものだったのかを、深く考えるようになりました。
どれほど美しかっただろう、どんな手触りだっただろう、
失ってしまった命を、医学で取り戻す事は不可能だけれど、
彫刻という力を借りて、その姿を残す事はできる。
私は、動物たちの、そのままの形が大好きだったのです。
だけどいざ美術の方面で仕事をするとなると、私にできる事は一体何かを考えて、
最初は、絵でその美しかった動物たちの姿を残せたらいいなと思っていました。
けれど描くうち、2次元ではもの足りず、同じ3次元にかつてとおなじ存在感でその子がいたら、どんなにいいだろうと思うようになりました。
みるみる、「彫刻」というものに、私は取り付かれて行きました。
それから彫刻の勉強を本格的に進めるために、浪人時代を経て東京造形大学の彫刻科に進みました。
大学時代は、とにかく今を大切にする時間だと考えました。
大学時代ほどの制作環境に、もう二度と戻れないことを、分かっていたからです。
彫刻という世界は、設備投資や制作環境の確保、制作費用など、どれをとっても美術業界の中で一番先行投資のかかる世界です。
それをいざ卒業して一人でやっていこうとして、どれほどの貯金を学生時代にためても、足りないことはわかっていました。
朝は、彫刻棟に住んでいた猫を、スケッチして、9時からは授業のモデル塑造、16時くらいまでは学科などの授業があったり、なかったり、
空いている時間は、自由に自分の制作ができました。
石、鉄、粘土、多くの素材に触れて、大学に入ってあらためて、素材でものをつくることの楽しさを学びました。
その中でも動物の毛並みを表現するのに、木が一番心地よく感じ、卒業してからも大規模な設備が比較的いらないこともあって、木彫を選ぶことにしました。
大学時代に自分の制作の核をつくり、環境を最大限に活用し、社会に出た後どのように目標を定めるかで、その後の彫刻家としての一生が、大きく変わるように思います。
卒業後は生活も苦しく、どうやったら社会にとって必要な彫刻になるのだろうと、本来の制作の楽しさを忘れてしまうような辛い時期もありました。
作家業をはじめてもうすぐ10年、ようやく自分のやりたい仕事で、生活ができるようになってきました。
大学1年生の時の制作環境を取り戻すのに、おおよそ10年がかかったとも言えます。
そう思えば大学時代とは作家生命にとってもほんとうに、価値のある、宝石のような時間だったように今は思います。
失った形を取り戻す、そんな事なんて、人間の手にはとうていできない事なのでしょう。
形あるものは、失われるからこそ、美しくもあるのでしょう。
私は彫刻で、命を吹き込んでいるとかそんなふうに思った事は一度もありません。
命はもう既に木の中に眠っていて、モデルのその動物たちが、「私を思い出して」といっているような気がして、制作しています。
あの時の、あの表情、あの一瞬を思い出して、それを形にする、
最初は私が出会った個人的な動物たちを残していましたが、
いまでは、多くのかたのたいせつないきものの家族の姿を、彫刻にする仕事を続けています。
とても難しく、責任の重い仕事ですが、私があの震災の後おもった、
「あの子は、あの子がいる景色は、どれほど美しかったことだろう」の思いが、
私を迷わせる事無く正しい方向へ、動物たちが導いてくれているように思います。
かつて生きていた美しいものたちから、これから生まれてくるであろう美しいものたちへ、
彫刻を通して、伝える仕事を、生涯続けて行けたらなと思っています。
【はしもと みお作品写真撮影】森田 直樹
略歴
1980 兵庫県生まれ
2000 アトリエ "やま" 滞在、修行生活
2005 東京造形大学美術学部彫刻専攻卒業
2007 愛知県立芸術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了
2010 アラブ首長国連邦滞在、作品制作
2013− 現在 三重県いなべ市在住
個展歴
2008年
タリーズコーヒー企画「はしもとみお彫刻展」 タリーズコーヒー栄店(名古屋)
2009年
「彫刻のレストラン」展 フリュウギャラリー(参宮橋)
2010年
「北のカトラリーと動物たち」 ミュシカ(名古屋)
東京都立小児科総合医療センター 彫刻制作(日建スペースデザイン企画)
2010年
UAE(アラブ首長国連邦)出張&スケッチ制作
2011年
「ココにいるケモノ」展 世代工房(大磯)
2012年
「砂漠のケモノたち」 ミュシカ(名古屋)
「遠い国のケモノたち」 ソーイングギャラリー(大阪)
「どうぶつたちと過ごすクリスマス」代官山アドレスディセ(代官山)
2014年
「動物たちからの手紙」はしもとみお展 一宮市三岸節子記念美術館(一宮)
■展覧会予定
はしもとみお個展 「旅する彫刻」
2015年5月16日(土)〜6月20日(土)
gallery kissa
東京都台東区浅草橋3-25-7 NIビル4F
営業時間 : 水曜日から土曜日 12:00~19:30、日曜日 12:00〜17:00
休業日:月曜日・火曜日
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<はしもと みお>
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