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2010年に開催された生物の多様性を討議する国際会議「CDP10」は、地球人が地球という閉鎖空間に生きる以上、生物の多様性が不可欠であることを再確認させました。個々の生物は生命の循環のなかで生を営むなか、絶滅の危機に直面した際、何らかの生き延びる道を残せるという意味で、多様性の獲得は生物にとって最重要で基本的な戦略と言えます。
ここで生物の多様性と対比的に「表現の多様性」という概念を提示してみたいと思います。戦後の日本美術は、様式や流派の中にあって質を高めるという方向とは別に、個人の感性やアイデンティティーに依拠した表現を拡大させ、表現の多様性を目指してきました。しかしながら現代美術といわれるものの中には、他人と異なることや奇を衒うことのみに走った表現もあり、観る者を困惑させ、多様性は混乱だと考える人もいるようです。
しかし、優れた表現が多様に存在すれば、生物の場合と同様、文明に翳りが見えた時、新しい表現が新しい価値を提供し、文明の芽となることができるのです。現在世界を蓋っている行きづまり感のようなものをもたらした原因のひとつは、新しい価値が生まれにくいことにあるようです。
今この表現の多様性を拡大するものとして注目されているのが、野外展や街中アート展で見られるサイトスペシィフィックアートです。「場」の記憶ともいえる、歴史、文化、風土、さらに具体的には地形、水脈、風向、植生、土壌、暮らし、祭り、といったその場所固有の情報と、アーティストの心の奥底に染みついて離れないオブセッショナルな概念とが渾然一体となって作品を生み出すのです。サイトスペシィフィックアートはその「場」でしか成立せず、かつアーティストにとっても、それまで追求してきたコンセプトに新しい局面に付加した新しい作品となるはずです。
国際野外の表現展の試みは、作品に「場」の記憶を組み込む試みであり、日常の野外空間において普段アートとは無縁の人の心にも感動を喚起しようとする行為だといえます。
国際野外の表現展は、世界各地で活躍するアーティスト達の「アート力」を活用して、地域社会に潜在している固有の魅力を顕かにし、アーティストと市民、学生の交流を通じ、豊かな地域社会の創造に寄与することを目的に、2002年よりプレ展を含め9回開催致しました。その後3・11の大震災の影響により活動を中断していましたが、多くの方々のお力添えにより再開することができました。
今後は地域の方々と来訪者の交流が促進され、地域の特色が輝きを増していくこと願い、里山空間にアートのネットワークを構築してまいります。
最後に、展覧会の開催にあたり多大のご支援とご協力を賜りました関係各位に、心より感謝申し上げます。
6期 美術学科 彫刻 小野寺優元
展覧会概要
【展覧会名】
国際野外の表現展2012
【会期】
2012年9月3(月)日〜12月21日(金)
【会場】
東京電機大学鳩山キャンパス周辺の里山空間
【主催】
国際野外の表現展2012 実行委員会
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