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山田猛 50期 造形研究科 造形教育研究領域(博士後期課程)
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教えるより教えられること

 専門は、国際協力分野の造形美術教育。その原点は1990年以降の“Education For All”の世界的動向を受けて、JICA(国際協力機構)より派遣されたパラグアイでの経験となる。教員養成校での造形美術教育や、民主化移行期の暫定政権下で進行中であった教育改革の一環として、教員対象の各種講習会や研修会等の教育省プロジェクト企画運営等の活動にあたった。
先進国が途上国に援助をするという図式で国際社会が動いていた時代ではあったが、私にとっては、教えるより教えられることの方が遥かに多かった。レヴィ=ストロースは「私たちは何かを失ってしまった」ことに言及しているが、彼の地の人々は、感度の高い五感や感性や素晴らしい人間性を当たり前のように持っていた。こんなことがあった。


 ある日、学生たちと何気なく夕日を眺めていた時に、太陽が地平線に「沈んだ」と私が思ったその瞬間、彼らは一様に「回った!」と言うのである。地球が回っているという宇宙全体をダイレクトに体感できる感度の良さを、本来人類は持っていることを教えてもらった。その一方、自分が如何にわかった気になっていただけで、真実や本質を観ていない事を痛感するきっかけともなった。学ぶべきは、むしろ人類本来の感覚を忘れている先進国側であると感じる。
制作も続けていたため海外での作品発表等がきっかけとなり、アルゼンチンの国立美大からお招きを受けた際、国立大は授業料が無料という点に驚かされた。学生の半数近くが、当時30歳前後であった自分より年上で、大学が社会に開かれており、日本もいつかこのようになってくれればと願ってから、かれこれ四半世紀以上の時を経ても、まだまだ追いつけていない。


 アルゼンチンの公立美術館で実技研修講師の依頼を受けた際も、子どもや美大生や社会人に交じって、表現能力の秀でた人達も大勢いたため、聞いてみるとその美術館に作品が展示されている地元の作家達であるとのことであった。ここでも教えるより教えられることとなったが、このようなことも、日本の美術館ではあまり見られない光景かもしれない。


世界で活躍できる人材を多く世に送り出していきたい

 東京都の中学校や、海外4ケ国で様々な経験をさせてもらいつつ、中学校美術教科書・教師用指導書(日本文教出版)をはじめ、いくつかの美術教育関係書籍等の執筆に関わらせてもらった。
 東京造形大学では、非常勤講師をさせていただいたことに加え、博士後期課程の社会人学生として研究活動をする機会もいただけた。テーマは「日本の国際協力における造形美術分野の基礎教育」であったが、研究指導の春日教授をはじめ、研究補助の小林教授・石賀教授から丁寧なご指導を賜り、審査員の井原教授や池上教授からの貴重なアドバイスのお陰もあって、何とか拙論をまとめ修了させていただいたことに深く感謝する次第である。
 今後は、限られた時間の中ではあるものの、母校への恩返しとして後進を育成し、学校現場のみならず、造形をツールに世界で活躍できる人材を多く世に送り出していきたい。まだまだ赴任したてで至らない点が多く、諸先輩方にもよろしくご指導の程お願いしたいところである。


山田猛(やまだたけし)
1962兵庫県神戸市生まれ
1985東京学芸大学教育学部美術科卒業(教育学士)
2008放送大学院文化科学研究科・教育開発プログラム修了(学術修士)
2019東京造形大学大学院造形研究科博士後期課程修了(造形博士)
東京都公立中学校、香港日本人学校、東京学芸大学附属竹早中学校等、パラグアイ、アルゼンチン、メキシコにおける教員養成校や美術大学講師、美術館・実技研修会講師、東京造形大学、東京学芸大学等での非常勤講師等を経て現職。


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